【2】世間はきものを待っている
<第37回 愛のリレー>

着物は1000年続く愛のリレーです。 未来に伝えたい想い、大切にしたい想いを衣服にのせています。 着物に描かれるデザインは森羅万象で、自然の花々や風景、人物、器物、物語、架空のモチーフなど… 日本の美意識を表現していますが、同時に、対象そのものに意味を持たせています。 鶴亀が縁起が良いとしたり、富士山に霊力があるなど。伝統的な模様について調べると 大変勉強になります。それは幸せを願う、さまざまな想いです。

健康、長寿、子宝、家族円満、暮らしの安寧 立身出世など…さまざまな欲があるのが人間ですが、 裏を返せばほとんどのことが「思うようにならない」ことの現れです。 思うようにならない暮らしに「祈り」で願いを託すこと。 西洋のように自然を克服するのではなく自然に神が宿っていると考えたり、 不思議な力があると信じること。日本人には謙虚な姿勢があります。

いっぽうで、現代は豊かな時代です。 それはとても素晴らしいことですが、豊かさが当たり前になると忘れてしまうことがあります。 科学、技術の発展や法律、社会保障などの整備がすすむと、伝統的な呪術はすたれ、 風習は形骸化してゆくでしょう。仕方ないことですが、思うようにいかないときに 幸せを見付ける術(すべ)は大事なことではないでしょうか。

誰でも「その時がきたら」気づきます。 現実はきびしく、理不尽にあふれていることを。 たとえばそれは病気や事故、自然災害にあったときかも知れません。それは「たまたま、偶然に」起こります。 今年で言えばコロナウイルスが象徴的です。さらに、人生に谷があるという意味で 広い現実におきかえれば、珍しいことではありません。 だれにでも訪れる親子の死別だったり。世のなかの不景気やブラックな職場、ハラスメント、子供のイジメさえ。

ヒトのちからが及ばない運や神の力があるかもしれない、むしろ働いていると考えるほうが自然です。

冠婚葬祭や初詣などの着物をきる機会は「願うとき」。 より良い未来を願い、衣服に込めて次世代に伝えてきたと言えるのではないでしょうか。 そうしたことを考えて、私も感謝の念をおもいだす年になりました。

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