【3】「きもののはなし」

<<第19回 ロマンあふれる辻が花 >>

「辻が花(つじがばな)」と呼ばれるデザインをごぞんじですか? 振袖から訪問着、小紋、ゆかたまで幅広く取り入れられている、 この柄のロマンあふれるストーリーを紹介いたします。

「辻が花」を直訳すると「道端に咲く、なんてことのない花」です。 椿、菊、梅、撫子…古来より、あらゆる草花、自然、がモチーフ(題材)になって着物や絵画に 使われています。そのなかで「辻が花」は現実の「ある花」を指しているわけでは なく、モチーフを持たない(!)のです。 …人々の想像が生んだ花。実在しない、空想の美。 いつ、誰がどのようにして、これを生んだかは大きな謎であり、詳しく分かっていないのですが、 室町時代に一世を風靡した事実だけが残っています。 辻が花染めは「絞り」と「染め」「ししゅう」の併用で作られます。 大変高度な技法であり、当時は上流階級の男性のためのものでした。 (大河ドラマに出てくる武将のほとんどが着ています。) これに対等に競える技術、華やかで、美しいデザインは、 江戸時代に友禅染めが確立するまで、待たなくてはなりません。

久保田一竹と辻が花。 長い、長いあいだ、辻が花は歴史から消える時代を迎えます。 それが、再び日の目を見ることになるのは、ひとりの生涯をかけた 情熱でした。今年(2003年)亡くなった久保田一竹さん。 14才から染色をはじめ、たまたま20才の時、 博物館で室町時代の「辻が花」に出会います。 シベリアの抑留生活を経て、戦後、その再生に惜しまない努力、研究を 重ね、60才になって「一竹辻が花」として発表します。 こうして「辻が花」がよみがえりました。 久保田一竹さんは、アメリカのスミソニアン美術館で初めて個展をひらき、 生涯きものを通じた作品、富士山と「春夏秋冬・宇宙」を表現する連作 に取り組みました。今でも、山梨県の一竹美術館でその一部を見ることが出来ます。

「わたしたちの心の中で咲く花」 もちろん、季節に左右されない花ですので、 いつでも着たい時に、用意したいですね。

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