【2】世間はきものを待っている

<第33回 一期一会の衣服>

春は別れと出会いの季節です。卒業式や入学式、入社や引っ越しもありますね。 〜式といえばフォーマルな服装が必需になりますが、なかでも、礼を尽くした和服は好感度があります。 和服はキチンとした衣服というだけでなく、一期一会のハレの意味を強める服です。

さて、広い意味で一期一会をとらえたら「人生は旅」と象徴できるかも知れません。 着物のデザインの一つに「茶屋辻」と呼ばれるものがあります。 私は若いころ「今でいえば、ただの喫茶店じゃないか」と冷めた悪態をつきましたがw  これこそ味わい深く一期一会を表現していると思います。 あえて人物は描くことはしないで、道が交わるときの出会いに思いをはせる。 つかの間の時間を交わり、また別れゆく。(渋いです) 再会できるかどうか、確かなことは分からず、つねに運や偶然がはたらいています。一期一会は 古典文学の方丈記(ゆく河の流れは絶えずして…)や平家物語、奥の細道などの「無常観」につながるのではないでしょうか。

今の時代、あまりに変わりすぎて「何それ?!」って感じですか? 豊かでモノも情報もヒトもあふれて、希薄してるくらい。〜式は単なる通過点だと感じてもおかしくはありません。 義務教育の敷かれたレールやさまざまな社会保障がリスクやトラブルをカバーしている時代です。

一方で。いくら便利になっても人生が思うようになるわけではありません。現実は見えない偶然、思いがけない出会いがもたらす 出来事にじつは左右されています。逆に「気づきにくくなっている!」…これは警告すべき問題かもしれません。

私事ですが、この文章を書いた月末、トラブルに遭いました。
ひさしぶりの事故でしたが、世の中つねにどこかでトラブルは起きているのです。
平穏で、恵まれていることは当たり前ではないです。
人のありがたみ、自然への畏怖や敬意、健康であること。
科学やお金で代えがたいもの。不遜になった心を洗い流せる力が、着物に宿っている気がします。 たいせつな原点を忘れてはいけないと。謙虚さを忘れないようしたいと思います。

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